インプラントの基礎知識
- インプラントの概念
インプラントとは、歯を失った患者の口腔機能の復元を目的とした治療法の一つであり、顎骨に直接埋入される人工的な歯根を指します。主にチタンやジルコニア等の生体親和性の高い素材が用いられ、その上に人工歯（クラウン）が取り付けられます。その結果、自然な見た目と機能を持つ「新しい歯」が得られます。
- インプラント治療の適応と非適応
インプラント治療は歯を失った多くの患者様にとって有効な選択肢となりますが、全ての患者様が適応となるわけではありません。適応となる主な状況は以下の通りです。
・単一または複数の歯を失った場合
・全顎の歯を失った場合
・ブリッジや入れ歯に不満を感じている場合
一方、非適応となる状況も存在します。これらは以下の通りです。
・未成年（顎骨の成長が終了していない場合）
・妊娠中
・重度の全身疾患（心臓病、血液疾患等）を有する場合
・顎骨の量が不十分な場合（ただし骨増生手術を行うことで解消可能な場合もあります）
・喫煙や高度な糖尿病等、インプラント治療成功率を低下させる要素がある場合
- インプラント治療の手順
インプラント治療の一般的な手順は以下の通りです。
治療計画の立案
患者の口腔内状況を評価し、レントゲンやCT等の画像診断を用いて治療計画を立案します。
一次手術（インプラント体の埋入）
局所麻酔のもと、顎骨に穴を開け、そこにインプラント体を埋入します。
骨結合期間
インプラント体が顎骨に結合するまでの期間（数ヶ月間）を経ます。
二次手術（アバットメントの取り付け）
顎骨と結合したインプラント体にアバットメントを取り付けます。これは人工歯を取り付けるための「接続部」です。
上部構造（クラウン）の製作・装着
最終的な人工歯（クラウン）を製作し、アバットメントに装着します。
- インプラント治療のメリット・デメリット
インプラント治療の主なメリットは、自然な見た目と感触、周囲の健康な歯を削る必要がない、咀嚼機能の改善、骨吸収の予防などです。
一方、デメリットとしては、治療期間やコストが比較的高い、手術という侵襲が必要、インプラントが体に受け入れられないリスクがある（成功率は高いが100%ではない）などがあります。
- インプラントの素材
インプラントは主にチタンまたはチタン合金、そしてジルコニアなどの素材が使用されます。チタンは優れた生体親和性、機械的強度、腐食抵抗性を持つため、医療分野で広く用いられています。
- インプラントの形状
インプラントは様々な形状が存在します。最も一般的な形状はスクリュータイプで、その表面は骨との結合を促進するために様々な方式で改質されています。例えば、サンドブラストと酸処理（SLA）、レーザー処理、ナノテクノロジーによる表面改質などがあります。
- 骨とインプラントの結合
インプラントが成功するためには、インプラントと顎骨との間に直接的、そして強固な結合が必要です。この骨とインプラントの結合を「オッセオインテグレーション」と呼びます。この過程には通常数ヶ月を要し、その間に正確なオーラルヘルスケアと適切な食事が重要となります。
- インプラント治療の維持管理
インプラント治療後も定期的なメンテナンスが必要です。自然歯と同様に、プラークや歯石の蓄積はインプラント周囲炎やインプラント周囲病を引き起こす可能性があります。これらはインプラント寿命を縮める大きな原因となり得るため、日々の適切なブラッシングとフロッシング、そして定期的な歯科検診が必要となります。
- インプラントの寿命
適切なケアが行われていれば、インプラントは長期にわたって持続する可能性があります。多くの研究で、10年以上の長期的な成功率が90%以上であることが示されています。ただし、その成功は患者様の全身的な健康状態、口腔内のケア、定期的な歯科検診、そして医師の技術と経験に大きく依存します。
- インプラントのコスト
インプラント治療は、初期投資としては高額ですが、長期的な視点ではコスト効率的な選択肢となることが多いです。ブリッジや入れ歯と比較して、インプラントはより自然な見た目と感覚を提供し、さらに周囲の健康な歯を保護します。また、定期的な交換や修理の必要性が低く、適切にケアされれば長期間にわたって持続する可能性があります。
以上が、「インプラントの基礎知識」です。このような知識を持つことで、適切な治療法を患者様が選択できると考えています。
また、患者様への情報提供や説明も円滑に行うことが可能となります。
